きずなASSIST
KIZUNA Assist
南インド・レポート 2012年3月20日〜3月30日
朽名拓朗
事前学習(カースト制)と、アニトラ・トラスト(環境NGO)
■事前学習(カースト制)
学習を受ける前の私の印象は、「TVなどで取り上げられる経済の急成長・日本企業の進出」など世界の中で急成長している国のひとつという認識であった。三度の事前学習でインドの実情を知り、私が学生時代に習った「カースト制」が未だに存在していたことに驚いた。
しかも、カースト制に入れない「アウトカースト=ダリット(不可触民)」の人たちの存在は知りもしなかった。ダリットの人たちは、インドの人口約3割(3億人)を占め、彼らは3000年もの間、社会的、文化的、経済的、政治的に虐げられ社会的に無視されてきた。60年前にインド政府から「指定カースト」として保護されているが、差別は継続している。メディアで取り上げているのは、一部の明るい話題だけで本当の現状を映しているものはないのだと心の底から感じた。
■アニトラ・トラスト(環境NGO)タミルナードゥ州チェンナイ
インド滞在初日にアニトラ・トラストが支援しているスラムを訪問。スラムというと不衛生・犯罪というイメージが強いが、訪問した地区は活気があり衛生面はそれほどよくはないが、子供たちがよく笑い明るい印象を受けた。これもアニトラの支援の成果のひとつだという。
スラムで貧困かと思うと、各家庭にカラーテレビがある。州が無料で提供し約85%の家庭に普及しているらしい。教育も無料で受けられる。インドの教育制度は、日本の小学1年から高校1年までの10年間が義務教育にあたる。
市内にあるスラムの土地は、チェンナイ市内の経済成長に伴いホテルやマンションなどの建設計画があり、税金を納めていてもどの政党が与党になるかで土地から強制退去させられるため、若い世代でも政治的関心を日本以上に持っていた。
スラムの人々は、日雇いの仕事をして生計を立てている。収入が少なくほとんどの人が1日2食で生活している。仕事以外は街に行きたくない人がほとんどで、スラムの中のあちこちに様々な店があった。そこで生活に必要なものを買い求めている。
■アニトラ・トラスト(環境NGO)ディナバンドゥ村
※アニトラ発祥の地、宿泊施設(写真左)、研修施設(写真右)
ここでスタッフを育成し、村に派遣している。現在スタッフは40名(ダリットを中心とした人材育成を行っている)。活動は人権の改善が中心で、組織を作ることで様々なことであきらめていた人々の意識改革を行うのだという。私が直接話を聞くことができたのは、ニューマックス協同組合で、ダリットの人々の多くは担保がなく銀行からの融資を受けられない。そこで自分たちのお金を持ち寄り集め、必要な時に融資を受けられるようにする協同組合を設立した。
2006年設立当初は、なかなか人々の賛同を得られず10名からスタートしたが、スタッフの働きかけにより現在では1240名にまで増えている。利用者の中には、主人が急病で緊急手術を行わなければ助からない時に、協同組合の融資のおかげで命を救うことができたと話す人もいた。
私はニューマックス協同組合の話を聞いて、アニトラの活動を間接的にだが支援する「きずなアシスト活動」を続けていく大切さを実感した。
村の稲作。訪問中は乾季で一度も雨は降らなかった。地下水を利用して稲作をしている。日本のような用水路はなく、溝を掘っただけで水が届く畑は少ない。ほとんどが荒れ地になっていた。
村のあちこちで同じ光景があった。煉瓦つくりだ。泥をこね型にはめ、乾燥するまで干しておく。作った人がわかるように煉瓦には3文字のアルファベットが書かれている。これは家を建てるときに使われ、ひとつ5ルピーで販売している。
ホームステイ(アニトラ・トラスト)、インド医療事情
■ホームステイ(アニトラ・トラスト)
私を受け入れてくれたMr. Tailor.(写真左)。30軒ほどの集落で雑貨屋を営みながらキリスト教の神父の服を作って販売している。彼は指定カーストを受けていて、国から様々な給付や手当が受けられるが、キリスト教に改宗するとその指定カーストから外れてしまう。同じように税金を納めていても、国が定めた宗教に入っていなければ支援を受けられない。日本では宗教上の理由で支援を得られなくなることはまずない。日本では考えられないことだった。
彼はキリスト教を信仰しているが、表向きにはヒンドゥー教の名前を使っている。写真右中央に書いてあるThomashがキリスト教の名前。彼は、家族6人を養っている。収入の多くは服の販売によって生計を立てている。1m・12ルピーで生地を買い、1着100ルピーで販売する。指定カーストから外れてしまうととても生活が成り立たないという。
ホームステイ中、男女差をいたるところで感じた。食事の際もまず、主人が食べ、次に男の子供、そして女の子供、最後に母親が食べる。量が足りなくなる度に水を入れて薄めていく、母親が食べるころにはかなり薄いカレーになってしまう。
朝早く目が覚めると女の子は外で眠っていた。暑さのせいもあるかもしれないが、日本では考えられない光景で私は衝撃を受けた。
インドではダウリーという結婚準備金を女性側が嫁ぐ男性側に持っていく風習がある。準備金が少ないと相手側の両親からいじめにあったり暴力を振るわれたりするという。このダウリーの風習のせいで女性の扱いが低くなってしまうのではないのだろうか。今では少なくなったというが、10年程前までのインドでは女児が産まれると殺してしまう家庭もあったという話も耳にした。それほどダウリーは高額で、貧困なダリットの人を苦しめている。
■インド医療事情
訪問した村にある公立の第一次病院(PHC=プライマリーヘルスセンター)。医療費は無料で受けられる。ここでは西洋医学と伝統医学の2つから選んで受診することができる。伝統療法はアユルベーダといわれる昔から使われてきた薬草を中心とした療法、日本でいう漢方薬と似たものだ。
施設内の入院部屋は出産時にしかほとんど使用しない。最近では経済成長から食生活が乱れ、成人病が増加して病院にかかる人が増えている。この病院では、日本の病院施設とは違いレントゲン・CT・MRIなどはなく、血液検査ができる程度の設備しかない。廊下のあちこちに血液の付いたままの使用済み注射器や点滴が、無防備にバケツに入れられていた。
看護師は、1人あたり3~5000人を担当し、保険指導や予防接種をしに各村を廻っている。写真はスラム訪問時、保育園に来ていた看護師が子供に予防接種を行っているもの。
公立病院は無料で治療を受けられるが、設備の整った病院で治療を受けるには順番待ちになり、急病時では有料の設備が整っている私立病院で受けることしかできない。日本のような保険制度がないインドでは、緊急性の高い病気の時には莫大な治療費がかかる。CTを撮るだけで8000ルピー(16000円)もかかる。ダリットの人の月収の2.5か月分にも及ぶ。手術になればなおさら費用はかさむ。私はアニトラが組織したニューマックス協同組合の話を思い出し必要性を強く感じた。
ARP(ホームステイ)~まとめ
■ARP
私を受け入れてくれたもう1つの施設。元々は職業訓練校で、キリスト教に改宗したダリットの人々が収入確保のためにミシンの使い方を教える施設だったが、現在は様々な事情で子供を育てられなくなった家庭から子供を預かり、無料で学校に行かせ食事を与えたりしている。ここはアニトラとは違い、ほとんどの人がキリスト教に改宗している人ばかりだ。
■ホームステイ(ARP)
2つ目のホームステイ先、ARPで働くMr. Alexanderの義理両親の家。
先のホームステイと違い裕福な生活をしている。パソコンや洗濯機があり、生活にゆとりを感じた。成功者の良い例だった。廻りの家は、彼の家と違いヤシの葉を編んだ壁や屋根で建てられており、やはり以前訪問したホームステイ先よりも生活の貧困を感じた。
なぜキリスト教に改宗したのか?私の最大の疑問をここで教えてもらった。生活の不自由よりも精神的な自由を選んだ。改宗以前よりも政府からの支援もなくなり、生活には不自由が増えるが差別されるよりは良い。私にはない幸福感だった。
■まとめ
私の関心事は、やはりカースト制度だった。事前学習で初めてダリットの人々のことを知り、現地で直に触れ合うとダリットの中でも生活の差を感じました。高学歴や海外研修を受けられた人は、収入を大きく得られることができるが、貧困で大学にも行けない人も多く生活の改善はできない。しかし、NGOの支援によりダリットの人たち意識の改革をしていく組織作りは進んでいる。時間はかかるが少しずつ改善しています。
世界の子供たちにより良い環境を作っていけるように、私たち中京医薬品が行っている、きずなASSIST活動を継続的に行っていく必要性を強く感じました。この体験をより多くの人に広げていき、支援の輪を広げていけるよう活動していきます。
貴重な体験をさせていただいたことに感謝しています。
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