098: 勉強不足という恥
2013.11.10
※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。
日本の鉄道史上において、第一級の先駆者として新幹線をつくり上げ、望まれて後に宇宙開発公団に転出した島秀雄という人がいる。彼はこう述懐している。
「技術的な課題に直面したとき『できない』と断る方がいちだんと難しい。『できます』というときは幾つかの手立てがある場合でもひとつ見つければそれで返事ができる。『できない』と断言するには、あらゆる道筋を読んで、その可能性をことごとく否定してしまわなければ、それが言えない道理である。『できる』と言ってできないと責任が重くなる事を恐れて何や彼やと受け渋るのに『できません』と割りにアッサリと言ってのけるのはどういうことだろうか」
実に真理をついた言葉だ。今日まであらゆる分野で、一見難題と思われた事が次から次へと成し遂げられ、新しい歴史を切り拓いていった原動力とはまさにこういう積極性とプラス思考ではなかろうか。
さて日頃、いろいろの人からの紹介で、いろいろの人が訪問してくれるのだが営業マンとしてあまりにもお粗末な人が少なくない。見込み客として商談に来られたはずなのに弊社の事をろくに調べもせずのぞんでくるのだからあきれてものも言えない。情報社会のこの時代にインターネットをはじめ、情報知識はどこからでも得られるはずなのに。
こちらがやきもきするぐらいに、あまりにも無知なので、いたたまれず、おおよその事を説明すると、決まって口にするのは「勉強不足ですみません」と。
準備の為の勉強はおろか、もともとその気などないのだ。こういう人は人の心はつかめないし、いつまでたっても商機をつかむことはできない。と同時にこういう人から後日お礼の手紙を頂いたためしはない。結果、せっかく紹介した人の顔にも泥を塗ることになる。そしてよかれと紹介した人も、面談の機会をつくってくれたことへの御礼の一言があってしかるべきだ。
紹介する人も紹介される人も相手さまの事をよくよく考えなければならない。そのためにこちらはわざわざ忙しい時間をさくのだから。紹介というのはなかなか難しいものだ。安易にすることは怖い事だ。それなりの配慮が求められるからだ。そうでないと礼と恥をかく事になる。
また一方的に独りでベラベラと知識をひけらかして喋りまくって帰る人もまた多い。一体全体この人は何をしに来たのかと首を傾げてしまう。相手の声に耳をかたむけ要望を掴みとるべく営業マンの基本的な姿勢が全く欠如している。小生にとっては時間とエネルギーの浪費で後味の悪いものだ。こういう人とは二度と会わない事にしている。
他人事ではない。よくよく気をつけよう。
平成十六年五月三十一日