099: 相手を見て対応を考える

2013.11.25

著書「心のしずく」より

※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。

 こんな笑い話がある。

 ある街に鈴木さんと田中さんが住んでいました。両家は生垣を挟んで隣同士です。鈴木さんの家では庭の畑で野菜をつくっていました。他方田中さんの家ではニワトリを飼っていました。

 ところが田中さんの家のニワトリが両家のしきりにしている垣根をくぐっては鈴木さんが大事に育てている野菜を食い荒します。そこで鈴木さんの奥さんは思い余ってニワトリが入ってこないよう、幾度となく苦情を申し込むのですが、田中さんの奥さんは「ニワトリを一日中小屋に縛っておくのもかわいそうだからしょうがないでしょう」と言って一向にとりあってくれません。

 相変わらずニワトリを小屋から出します。せっかく丹精こめてつくっている野菜が台無しになってしまうので、困り果てた鈴木さんの奥さんは、ご主人に、「あなたニワトリを小屋から出さないようお隣に談判してくださいよ。もう我慢も限界だわ」とせまる。

 ご主人は「よし分かった。俺がうまく話をつけよう。そのかわり手土産がいる。卵を五個ばかり買ってきなさい」「あなた、隣がうちの畑を荒らすのよ。それなのに手土産とはどういう事ですか、おかしいじゃないですか」「ちょっと待て。俺には俺の考えがある。とにかく買ってきなさい」

 鈴木さんのご主人は奥さんが買ってきた卵をもって田中さんの家に行き、「実はうちの玄関の下駄箱の隅っこに卵が五個ころがっておりました。多分これはお宅のニワトリが来て産んでいったのではないでしょうか」そうすると田中さんは「ああそうでしょう。近頃どうもうちのにわとりのやつ卵の産みようが少ないので、どこか具合でも悪いのかなと心配していたところですよ」と悪びれる色もなく答えました。

 その翌朝のこと、早速田中さん夫婦はニワトリの出入できないように、せっせと垣根の手直しに精を出していたということです。浅ましい限りであるが、自分の欲得のためには他人の迷惑をかえりみない手前勝手な田中さんのような人は、てのひらをかえすように現金な行動に出るものです。

 こうして鈴木さんは田中さんに対して見事な対応で問題を解決したわけです。鈴木さんにとっては卵五個分のわずかなコストの負担で済みそれと引き換えに、生垣の修理代は田中さんの持ち出しになりました。

 「損して得とれ」という事であるが、日頃より相手の人間をよく見てその対応を考え、行動する事の大切さを教えられる話でした。

平成十六年六月三〇日