049: 究極のプラス思考

2011.10.25

著書「心のしずく」より

※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。

 これからの時代社会は急流のごとく、変化が多様化し、スピードが激しいから、その流れに上手く乗れるよう、いかに自分を合わせていくかが肝要だ。いつのときも、急流の変化は好むと好まざるとに関わらず、自分にとって都合のいいように合わせてはくれないのだ。だからと言ってそれを恨み嘆くことより、積極的に自分の方からうまく合わせるような、頭の切換えをプラスにスイッチオンして、若竹のように柔らかい心でもって対応しないと、個も企業も生き残れない。
 昔はこうだったとか、性格に合わないとか、立場がどうのこうのと(応々にして私心、保身からくるようだが)手前勝手な悠長なことを言っておっては済まされない。変わること、変えることへの恐れ(突き詰めてゆくと、たいした根拠もなく、ただ何となくが多い)から、かたくなに過敏な防御姿勢をとって、内に引きこもるよりも、むしろそれに乗っかって、すすんで外に打って出た方がいい。
 常に万事は後向きのマイナス思考より、前向きのプラス思考の方が、ずっと気が楽だし、思ってもみない新しい進展を見せる。「組織は戦略に従う」の原理原則は、常に組織がダイナミックであるためには、何よりもそれを構成する人がプラス思考で挑戦的で柔軟であることが必要不可欠だ。
 さて、良寛さんにこんな話がある。船で川を渡っているとき、船頭が徒ら心を起こして、船を揺らし、良寛さんを川に落としてしまった。なぜそんなことをしたかというと、良寛さんはいつ、どんなときも「結構、結構」とニコニコしていて、決して怒ることがない。そこでわざと、ひどいことをして怒らせようとしたのだ。
 結局船から落とされた良寛さんは泳ぎがダメだったらしく、たちまち溺れかかった。そのままにしておくと死んでしまいそうなので、船頭もびっくりして助け上げた。自分で落としておいて助けたのだから、いくら良寛さんだって「ひどいじゃないか」くらいは言うのだろうと思っていた。
 ところが良寛さんはこう言った。「いやぁ、ありがとう、ありがとう。全くあんたが助けてくれなきゃ死ぬところだったよ。あんたは命の恩人じゃあ」
 器の大きい人間は時には大バカに見えるぐらいの究極のプラス思考だ。まさに生きるか死ぬかの突発の大事であるのに。

平成十二年四月一日