028: さりげないきくばり
2010.12.10
※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。
家庭における子供のしつけについては、いろいろと論議の多いところであるが、最近ある友人からこんな話を聞いた。
電車の中でのある家族(推定年令父四十才、母三十七才、男の子六才)の光景であるが、車内はほぼ満席で、この家族は相向いの四人掛を占拠している。子供が対座している父母の間を傍若無人にキャッキャッと、耳をつんざくような金切り声を上げて往ったり来たり飛び跳ねている。
周りの人はその騒々しさと親の無神経無作法に閉口し、厳しい叱責の視線を両親に向けるが、一向にどこ吹く風だ。そのうち母親が口を開く。「○○ちゃん危ないよ。ホラホラ・・・」と。一緒になって興じている。
友人はそのうちに親も周りを気づかって、静かになるであろうと我慢していたが、親子共々ますますエスカレートするばかり。周りの誰もが一斉に迷惑顔ではあるが、注意しようとしない。業をにやして一言いおうと思ったところで、その家族は下車してしまった。
よくある話であるが、昨今の深刻化する家庭教育の問題のもとがここにあるようだ。何よりも先ずマナーやルールは親や大人から教育しないと。友人いわく「あの両親の顔は忘れることの出来ない、何とも言いようのないバカ面だった」と。
もう一方では過日、たいへん嬉しい話があった。
豊橋営業所所長宛に、お客様で渥美郡田原町にお住いの尾川様からのたよりである。手紙の全文をそのまま紹介しよう。
「四月一日午後五時半か六時近かったでしょうか。『中京医薬品です』と言って礼儀正しく玄関の戸を開けて、好青年が入ってきました。彼は四方山話をしながら薬を取替えて行きました。彼が去った後、ふと、土間を見ますと、乱雑に脱ぎ捨ててあった履物が奇麗に取りそろえてあるのではないですか。女の方ならいざ知らず、若い男の方が、ここまで気の付かれるのにつくづく感心致しました。勿論、ご本人の生来の気配りに由る事も大でしょうが、御社の教育方針の然らしめる処かと感嘆頻りという心境です。ご本人に宜しくお伝え下さると共に、御社の益々のご発展をお祈りいたします。乱文失礼」
気くばりをさりげなくした担当セールスは安藤威文君でした。お客様の有難いおたよりにひどく恐縮しながら、彼の姿勢に心から感謝し、感動と感激でいっぱいです。
嬉しくて嬉しくて手紙を何度も何度も読み返したものです。
平成十年四月二十八日