097: 啐啄同時はヒナと親鳥が同時に突く
2013.10.25
※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。
報・連・相(ホウレンソウ)の重要性ほど、知っているつもりで、本当は何も分かっていない人が少なくない。組織はタイムリーに心の通い合うコミュニケーションができてはじめて機能していくものだ。ホウレンソウは組織運営の基本中の基本だ。
「報告を怠ったために絶好のチャンスを逃がしてしまった」
「連絡がほんの少し遅れたために、取り返しのつかないことになった」
「前もって相談してくれていたら、いいアドヴァイスができたのに」
ホウレンソウの大事なところは“スピードと密に”が生命線だということだ。それが欠けたら、今朝に昨日の朝刊を読むのと同じことで何の意味もない。ホウレンソウは幹部が率先垂範してこそ、チームを活性化し、さらに有能な人をつくっていくものだ。
さて、ある老師からこんなことを教わった。禅に「啐啄同時(そったくどうじ)」という言葉がある。卵の中にいるひなが殻を破って孵る時、小さなくちばしで内から懸命に堅い殻を割ろうとするが、この好機をじっと待っている親鳥がこの時ばかり、間髪をいれずに外からくちばしで突くと、殻が見事に割れて、無事にひなが誕生するという意味である。ひなが生まれるには、ひな自身の生への強い執着心とグッドタイミングを見極める親鳥の思いと手助けがあってこそなせる業だ。
この啐啄同時の原理は、学ぶことはもちろん、ほめたり、叱ったりして人を指導教育していくことに通じる。本人の問題意識や意欲のないときに、その原因や様子をしっかりと見ずして、いかに意見、忠告をしても、ぬかに釘、のれんに腕押しで、何の効果もない。時には思わぬ反感や嫌悪感すら相手に抱かれることになる。
人づくりは「求める心」と「与える心」、つまり「育つ」「育てる」がうまくかみ合ってこそ効を奏する。「育つ」ために不可欠なことは、いかなる厳しい状況下にあっても、向上心をもち続けることだし、人から学ぶことを常に心がけることだ。
また「育てる」ためには、日頃から相手の性格や言動、さらに業績やデーターをよく注視し、機を見て敏に指導していくことが肝要だ。打てば響くように成るには、何よりも深い愛情と強い関心をもっていなければ、その業はできるものではない。
日常茶飯事によくあることだが、ダメ上司は「頑張れ」のかけ声だけだ。有能な上司は、部下と問題を共有し、一緒に考え、「こうせよ」と具体的な指示を与える。さてあなたはどちらの上司にあてはまるのか。
平成十六年四月二十八日