094: 目標を持たせて自助自立を
2013.09.10
※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。
評価というものは、なかなか難しいものだ。見る人のものさしによって、そのつける点数にバラツキがあるものだが、こと自分が自分を評価するときは人からもらう評価に比べ自分への点数は極めて甘い。
極悪非道の限りを尽くしたあの暗黒街の帝王アルカポネでさえ留置場の看守人にこうもらしたそうだ。「俺は世間から非難を浴びるほど、そんな悪い人間ではない、俺は今までにいいことを一杯してきたつもりだ」と。
人間は自分の都合のいいように、いろいろと理屈をつけ、端から見ると見苦しいほどに自分を正当化する動物のようだ。おおよそ人からの自分に対する評価は、自分が自分を評価する点数の一〇%からせいぜい三〇%ぐらいに思って丁度いい加減だ。世の中を渡るときは、時として自己主張もいいが常に慎み深さと謙虚さを心がけることが肝要だ。そうでないと結局は笑い者になる。
話は変わるが、過日、老人福祉の介護士さんから老人の自助・自立についていい話を伺った。
「老人を椅子から立ち上がらせようとすると『さあ立ちましょうね』と言って老人の手を取ります。そのとき介添人が老人の手を取ろうとすると、老人は一〇人が一〇人とも決まって片一方の手でどこかにつかまりながら立ち上がろうとします。それは、老人にとってあなた任せが少なからず不安にさせるからです。しかし老人の方から自主的にこちらの手を握らせようとすると、そのまま立ち上がってきます。老人は自分から能動的に相手の手を取ることによって全身の筋肉が上手く機能して自分の行動を自身でコントロール出来るからです。つまり、『こちらから老人の手を取る』のではなく『老人の方からこちらの手を取らせる』ことが重要なポイントだということです。
そして、もう一つ大事なことは、目の不自由な方には特にそうであるが、目指す方向をきちっと示すことです。それによって目標を持つことのやりがいや頑張ろうという意欲を持つことが出来るからです。」と。
このことは、同様にビジネスの世界においても管理者が部下を指導育成していくときにも言えることだ。手助けを通り越して何から何までやりすぎてしまっては部下の自助自立を育くんでいく上で決してためにならない。それどころか、応々にして管理者は部下をダメにしていることが多い。
励まさなければならないときに批判したり、支えるべき時に叱責する。また耳を傾けなければならない時に一方的に喋ってしまう。注意しなければならない時に見て見ぬふりをする。こういう管理者が組織を蝕んでいく、人を腐らせていく。
平成十六年一月三十一日