077: 返品には売った時以上に懇切丁寧に

2012.12.25

著書「心のしずく」より

※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。

 お客さま第一の鉄則は不心得者によって、しばし破られるが、事と次第によっては組織もそして当人も将来に、取り返しのつかない代償を払うことになる。
 あくまでもお客さまのおかげで、我々は生活ができ、夢や希望をもてる訳であるが、もともとお客さまは気むづかしいし、気ままで恐い人なのだ。ことのほか不利益をこうむったり、不快になれば、当然のこと敏感に反応もする。特にクレームの対応には、当方の想像をはるかに越えて、一挙手一投足を強い関心と感情で見守っている。目を皿のようにして。
 しかし、お客さまは決して分からず屋ではない、寛容と良識の人たちだ。人間のやることだ、図らずもミスを犯すこともある。ただそのあとの処し方、姿勢が肝心なのだ。先ず深謝、反省をして、誠心誠意を尽くさなければならない。
 一人のお客さまを軽んじたら、百人の人からしっぺ返しを喰らうことになる。「悪事千里を走る」のごとく、口コミは悪しきことの方が良きことの何十倍も速く遠くの人々に伝わるものだ。もとより商いの根本は信用にある。信用を無くすには一時で十分であるが信用を得るには永い時が必要だ。信用は金では買えないし、虎の巻もない。愚直なまでに認められるようコツコツと積み重ねて初めて勝ちとれるものだ。
 さて大競争のこの時代、多種多様な業種業態がひしめくなか、お客さま満足を高める最大ポイントは、いかに差別化優越化した、品質の高いサービスを提供できるかどうかにかかっている。
 サービスの本質は気配りだ。お客さまは大切なお金を使うのだから私どもがうんと気を使うのは至極当り前のことだ。気配りは心の粘土細工のようなもので、形はいかようにも自由自在に、臨機応変にできる。あるいは精神の運動のようなもので、やればやるほどやわらかく、たおやかになり、その時々の相手の反応を観ての、面白さや楽しさもある。
 さて日常茶飯事、返品の対応について言及しておく。
 結論、返品は即座に快よく応じること。いかなる理由があろうともだ。
 決していやな顔をひとつでも見せてはいけない。売ったとき以上に懇切丁寧にせよ。さわやかに対応せよ。自分がその立場になれば分かることだが、そもそもお客さまは、気が変り易いのだ、だからこそ買っていただいたのではないか。お客さまの真意は買った品物を返して、今直ぐお金を取戻したいのだ。ここで「何故ですか」、「いやそう言わないで」は愚の骨頂だ。今後の参考のためにと理由を聞くのであれば、先ず返金してからだ。
 一時の売上にとらわれて、一生のお客様を、そして良き口コミ伝達者を失くすな。

平成十四年八月三十一日