053: 生きる喜びを共に

2011.12.25

著書「心のしずく」より

※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。

 他人の言動の良し悪しは何かと目につくものだ。それに比して自分のことになるとなかなか気がつかない。悪しきことは途端に甘くなり、自分の都合のよいように正当化する。反省は自分から、評価は他人からではなくて、反省は他人から、評価は自分からというように全く始末が悪い。
 あの極悪非道のかぎりをつくしたマフィアの大ボス、アル・カポネでさえも留置場の看守人にこうもらしたそうだ。「俺だって良いことをやったのに。世間から言われるほど俺は悪くない」近年、とみに生活者、消費者保護から、社会の目は厳しくなり、様々な法律も整備、改正されてきているが、至極当然のことだ。われわれも売り手ではあるが、一方立場を変えれは、安心や満足、気分のよさを求める買い手でもあるからだ。
 お年寄りや子供に無理な押し付けをしたり、ねばりとしつこさを取り違えたり、期限切れの商品を放置したり等々、お客様を無視した、自分の数字のための手前勝手な姿勢は早晩社会の制裁を受けることになる。
 お客さまのお役に立つというのは、先ずその前に人の道として正しいかどうか、良心に照らし合せ、親身になって接しなければならない。親身というのは自分が相手の立場になって、どうしてもらったら、ほんとうに嬉しいのか否かをおもんばかることだ。お客さまを他人さまと思うのではなくて、自分の両親、家族、友人と同様に思うときに、心が通じ合う。お客さまとのほんとうのパートナーシップは共に喜びを有することから築いてゆける。
 たしか、お客さまの喜びを我が喜びとするのは、先用後利の思想ではなかったのか。金は一時、信用は永時、信用は一朝一夕につくられるものではない。いったん失くしたら、取り返すのは大変なことだ。われわれの仕事はひとえにふれあい業だ。一人一人のお客さまに誠意を持って、コツコツと地味な奉仕を通して、信頼と喜びの輪を広げてゆくことにある。言うまでもなくお客さまとはありとあらゆる全ての人をさす。
 過日、寄しくも七夕の夜、憧れの地球交響楽団第二番の主役佐藤初女さんにお目にかかることができた。所望したら、私の手紙の表紙に記念にと言って、こんなことを書いて下さった。
 「生きるよろこびを共に 佐藤初女 二000・七・七」

平成十二年七月三十一日