026: 謙虚・感謝・積極・執念・集中
2010.11.10
※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。
IOCサマランチ会長のあいさつ「アリガトウナガノ、サヨナラニッポン」で十六日間にわたる雪と氷の祭展第十八回冬季オリンピック長野大会が成功裡に幕を閉じた。
「愛と参加」をテーマに、史上最多72カ国、地域からの選手二三〇二人、役員一四六四人の参加によるが、何よりも成功の大きな要因は、関係者、観戦者はもとよりボランティアの方々、地域住民の隠れた大きな支えがあったればこそだ。
一つひとつの競技には、一つひとつの緊張と歓喜が織り成し、一人ひとりがベストを尽くして競う様には十分すぎる見ごたえがあった。
とりわけ日本選手の奮起と頑張りに火をつけたのはスピードスケート男子五〇〇メートルで金メダルを獲得した清水宏保選手で、彼のいろいろな重圧の中での見事な闘いには熱く胸を打つものがある。
その清水選手の談話をいくつか拾ってみると、実に印象的だ。インタビュアーに「これまで大変な苦労と努力があったでしょうね」と聞かれ、答えていわく
「母のそれに比べたら僕なんかの苦労は問題にもなりません。」「堀井学さんという良き先輩、ライバルがいてプレッシャーを分け合ったからこそ、僕は力を出し切れた。滑り方も堀井さんから教わった。」「世界記録を出すつもりで滑りました。守りに入らず力を出しきれました。」「勝ちたいという気持ちが人一倍強い。僕は世界一小さいスケーター、小さくても勝てるということを証明したかった。」
来る日も来る日もくり返す過酷なまでの練習と本番のオリンピックを通して、清水選手は、人生の金メダリストとなり、これからの人生の価値ある生き方をつかんだ。
もう一方では、マスコミからは陰が薄かったが、青柳徹選手も印象的であった。彼はスピードスケートの中長距離の大ベテランで、一〇年前のカルガリーから四大会連続オリンピックに出場している選手であるが、カルガリーよりはるかに激戦だった一五〇〇メートルで自己ベストを一気に〇秒四九縮めて八位に入賞した。もう盛りをとうに過ぎる三〇才のベテランがなぜ力を出すことができたのか。答えていわく「夢心地の滑り、すごく集中するとそうなるんです。完璧な集中ができたからです。」
彼らの持つ謙虚・感謝・積極・執念・集中は我々に深い感動と感激、そして多くの示唆を与えてくれた。
ありがとう長野オリンピック。お疲れさまボランティアの皆さん。
平成十年二月二十七日