思うままに No.246

2016.05.31

エッセー「思うままに」

   

※エッセー「思うままに」より ~毎月更新~

 かれこれ三年ほど前になるが長野県は伊那市に本社をおく伊那食品工業のかんてんパパガーデンを訪れた際に、今でも忘れられない思い出がある。広大な敷地に癒しの空間とも言える緑豊かな森林に本社や工場と様々な施設が点在するガーデンは何ともうらやましく素晴らしい。そこで驚いたことがある。このガーデンのなかの小高い丘の一隅に茶店<こもれび>を預かる従業員の北沢なみこさんのことである。
 園内を散策する途中、お茶を一服頂こうと立ち寄った。そのとき他にお客さんがいなかったこともあって、しばしひま人の小生の話し相手につきあって頂いた。居心地よくあれこれと話に花が咲く。小生もかねてより伊那食品工業さんの塚越会長を敬愛する一人だと告げたからであろうか、彼女の客人の気をそらさない接客もあって楽しい一時をもてた。
 お礼を言って席をたとうとしたとき、どういうわけか、彼女から名刺をおもちでしたらいただけないでしょうかと所望されたのだ。一介の通りすがりの観光客に対して普通ではあり得ない。こんな経験は後にも先にもない。
 小さな茶店を預かるいち従業員さんの彼女の考え方、姿勢、所作は社の代表者そのものに見えた。この会社は一体全体どういう会社なのか、企業理念を実践する現場の底力にもの凄さを感じた。
 そしてこの度念願の塚越会長のお話を聴ける絶好の機会を得た。園内で昼食を済ませ、早速気にかかっている彼女のいる茶店へと足を運んだ。あいにく店は定休日であったが、運よくタイミングよく、たまたまそこを通りがかった彼女を見つけた。閉店にもかかわらず気持ちよく迎えて頂き恐縮至極また嬉しい再会となった。
 塚越会長は年輪経営でつとに有名で本やビデオ等でかねてより存じていたが想像していた通りの確固たる人生哲学、経営哲学をお持ちの方でした。秀れた人格識見は聴く人たちを大いに魅了した。
 社是は<いい会社をつくりましょう。たくましくそしてやさしく>。会社の真の目的は会社を構成する人々の「幸」の増進を計りながらさまざまな分野で社会に貢献することであり、会社の成長も利益もその手段である。社員の人間教育こそいい会社づくりの根源であるとの力説。この企業理念には感銘深く全くをもって同感するところだ。
 お話のなかでとりわけ次のコメントが印象深い。「報恩の心が大事だ。恩を仇で返せばその災いは子子孫孫に至る」、「最低でも決して人に迷惑をかけない。そして自分のできることで、少しでも人の役に立て」、「どうすべきかの前にどうあるべきかを考えよ」と。
 今後とも伊那食品工業さんの年輪が如く成長発展を祈念してやまない。