思うままに No.236

2015.07.31

エッセー「思うままに」

   

※エッセー「思うままに」より ~毎月更新~

 <口に蜜あり腹に剣あり>という言葉がある。

 もっともらしくさも為になる、役に立つ、得になるというような甘言、空言の夢や幻話を並べたてて、口先でうまいことを言いながら、一方心の中では人をたぶらかす企てをもつという意味に使われる。また人を人でなく道具として扱う。口は調法なものではあるが肝腎の実体はない。甘い口車にうっかり乗ろうものならえらい目にあう。先々には見事に裏切られるのがおちだ。

 その典型的なものが詐欺師、ペテン師の類だ。いづれも師がつく位だからたいしたものだ。人をたぶらかす先生だ。やつらの常套手段は先ず相手の弱み、悩み、望みを探し出してそれを餌にしてそのすき間につけ入る。

 狡猾にして巧妙で計画的だから無防備であればいとも簡単にやられる。目的遂行のためには手段は選ばない。あらゆる手を尽し口八丁手八丁、巧言令色にして、さも同情を寄せるかのように善意面をして仕掛けてくる。

 言うまでもなくだます方はもっとも悪いがだまされる方も悪い。世の中だまされる人がいる限り、だます手合いはいつになってもなくならない。だますよりだまされる方がましだと言うが、だまされたときにもっともこたえるのは自分の甘さ、浅さ、軽さに無上の腹立たしさを覚えるものだ。

 だまされないためにはこの人は信用に値する人かどうか、人を観る目を養うしかないが、眼力はそうそうたやすくもてるものではない。それでは我々凡人はどうしたらいいのか。そのひとつはその人の過去の行いをよく知ることだ。総て行いがその人となりを物語っている。

 もうひとつは客観性をもつ第三者からの意見助言をよく聴いてみることだ。おのずと目利きの精度は高まる。そもそも人は思い込みが強い。主観だけでは経験の深浅にもよるが、いかにも心もとない。要は間違っても一方の話だけ聞いてうのみにしないことだ。

 欲どおしい人、軽薄な人、ほんとうの自分の実力を分かっていない人、自分を過大評価する人、流され易い人ほどこの罠にかかりやすい。賢い人は高額な買い物をするときなどは衝動にかられないよう、じっくりと間をおき風を入れて判断するものだ。

 ドイツの名宰相ビスマルクの箴言に、<賢い人は歴史に学び、愚かな人は自分の経験にしか学ばない>とある。

 人は誰しも判断、決断するときには大小のリスクを伴う。そのとき自分の経験だけでは危ない。過去の歴史から原理原則を知り、人の行いをよく観察することが肝要だ。人は辛言、苦言をさけ甘言巧言にはその密に蟻が群がるように集まる。怖い怖いとよくよく気をつけよう。