思うままに No.204

2012.11.30

エッセー「思うままに」

※エッセー「思うままに」より ~毎月更新~

 日常には身近なところにもその道の達人がいる。
 過日東京からの帰途、新幹線車中でのこと、ワゴンサービスの売り子さんにはとても感動した。接客のさま、物言い、移動の仕方を観て親切、丁寧、迅速さには実にさわやかで胸のすく思いだ。眠気も直ぐさまとんでいった。彼女のあらゆる所作が余りにも素晴らしいのでどんな人なのか興味津々、デッキの所まで後を追いかけていろいろ話を聴かせてもらった。忙しい最中にも拘らずいやな顔ひとつ見せず私の不躾な質問に笑顔で答えてくれた。
 「先程よりあなたのことが気になっておりました。次から次へと売れていく様子にはとても感心しました。ところでいつも一番気をつけていることは何でしょうか」と尋ねたところ、怪訝そうにはじめは驚いた面持ちをされたが、おおよそ次のようにハキハキと答が返ってきた。
・先ず笑顔を絶やさないこと、目くばり気配りを心懸けています。
・ワゴン車がお客様の脚や肩に当たらないように気を付けています。
・状況を考えながらワゴン車の速度と声かけとその大小に気をつけています。
・前方の見込客の動向を見ながら同時に真横を通るときお客様の動きに五感を集中します。少し先に進んでからも後方を振り返ったりして聞き逃しのないようにしています。
・例えばビール、コーヒーをお買い求め頂いたときはそれに合うおつまみ等をさらっと言い添えます。
・周りのお客様はよく連鎖反応を起こしてお買い求め下さいますのでアイコンタクトを試みます。
・買って下さった後は自分の立ち位置をお客様の方に向けて真正面に正して心を込めてお礼を申し上げます。
 余りにも対応が素晴らしいのでついつい余分なものまで購入してしまった。この人お世辞にも決して美人とは言えないが、愛嬌といい受け応えといい全く申し分ない。多分何をやらせても一流であろう。ふとこんな人が息子の嫁になったらさぞかしいいのになぁと思いがよぎった。
 忙しい時間を割いてみず知らずのおじさんにおつきあい頂いたことに厚くお礼を言って席に戻ろうとしたとき、またまた感動してしまった。
 「ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。お気を付けてお帰り下さいませ」
とその一言で一日の疲れも一瞬の内にふっとんだ。