思うままに No.218

2014.01.31

エッセー「思うままに」

※エッセー「思うままに」より ~毎月更新~

 寒風にあってなお凛として健気に咲く水仙。心なしかうつむき加減にその控え目なたたずまいに自然と足が止まる。

 細長い緑黄色の葉に降りた霜が朝日に照らされてキラリと銀色に輝く。その間からそっと静かに顔をのぞかす可憐な花が絶妙なコントラストをなして絵も言われぬ美しさを漂わす。それに誘われて顔を近づけるとほのかに甘美な芳香が鼻を被う。幸せを感ずる一時である。

 多彩で派手な装いよりシンプルで清楚な姿が何よりもいい。この時期に盛んなシクラメンの花もそうだ。あでやかなものよりもシンプルな真綿色のほうがずっと心ばえがする。シンプルとは単に単純という意味のみにとどまらず華美な飾りを省いて正味そのもの純真を表す。そこに真・善・美の極みがあるように思う。

 人についてもやはりシンプルがいい。他人にも自分にも気が休まる。また物事もシンプルに考えたほうが惑わされずにその正体や核心をよくつかめる。人は往々にして物事をわざわざ複雑にして余計にことをむずかしく難解なものにしてしまうきらいがある。ことほどさ様に仕事についてもシンプルなほどいい。分かり易いし、伝わり易いしやり易い。正に【SIMPLE IS BEST】、【SIMPLE IS BASE】だ。

 さてその上で、仕事に向うあり様は、どうあったらいいのだろうか。

 仕事とは文字通り事に仕えることだ。仮に事に仕えるのではなくて物に仕えるのであれば仕物ということで別物になる。一言でいえば仕事とは人と人が、心と心が、お互いに事を通して相手に喜んでもらえるよう、自分のでき得る最善を奉仕することではないか。

 裏千家の大御所千玄室さんが茶の心でこう語っている。「人と人が仕え合うところにお互いの仕合せ=幸せが生まれる」と。静かに己の分際で心から温かくお迎えをする。亭主は精一杯の心を込めてお客に接し、お客もまた亭主の心づくしを感じて喜ぶ。お互いが相手を思いやり、仕え合うところからほんものの絆やおもてなしも生まれる。

 相手のために何ができるか一碗のお茶がおもてなしの真髄を教えてくれる。相手が喜んでくれるよう一碗のお茶に一瞬一瞬の命を差し出すことができるかどうかを問われるのだ。だから一つひとつの所作に懸命な覚悟がいるのだと。

 茶の心も仕事の心=あり様もその原点はシンプルにして同じだ。人に喜んでもらおうとする思いの先に、そしてその所作に一所懸命になるその先に相手にも自分にもお互いの仕合せが生まれる。仕事が死事ではなく志事になりますように。