思うままに No.178
2010.10.01
※エッセー「思うままに」より ~毎月更新~
記録続出の暑い暑い、長い長い夏ともようやくお別れだ。その分だけ天高く澄みわたる秋が短くなりそうだ。行く夏を惜しむ気にはとてもなれないぐらいの異常な酷暑であった。
一方、草木は炎天下で身を焼き焦がしながらも地中にしっかりと根を張り、ますます逞しくなったことであろう。「この猛暑のおかげで強い忍耐力と生命力ができた。この経験は先々いろいろな艱難辛苦にあっても、これでへこたれずに乗り越える自信がついた。」と草木たちが口を揃えて言う。
さて、日常生活のなかでよく使われる言葉に「仕方ない」がある。
普段は何気なく発するが、これほど安易に使われる言葉は多くはない。仕方とは方法・手段を意味する。それを無いと言い切るのは、あらゆる可能性をことごとく否定することと同じだ。この否定はよほどの根拠と確信がなければ口に出せない道理だが、それをいとも簡単に言えるのはどういう了見からか。ほとんどのところは諦めか怠惰かあるいは気休めから言わしめるようだ。
方法、手段に新たな発想を加えたり、着眼を変えれば可能な無数の仕方があるはずだ。安易に「仕方ない」を言う前に、「仕方あり」という創意工夫の思考が必要だ。できない理由を言う前に、できる方法を徹底して詰めていけば、今までできなかったことのうち、できることが相当あっただろうに。
もうひとつは「ついてない」がある。
天変地異の不可抗力ならいざ知らず、それ以外の大抵のところは自分がいたらないが故に起こる。「ついてない」といって運が悪いと嘆くものだが、自分の努力工夫の無さを棚上げにして、他に原因を求めるのは独り善がりで的はずれの見当違いというものだ。
常に幸運の女神は努力した者に味方をする。
先日、横綱白鳳が四場所連続全勝優勝の快挙を遂げ、自己の連勝記録を六十二に伸ばした。次の九州場所には角聖双葉山の大記録六十九連勝に挑む。大歓声と拍手のなか、優勝のインタビューは多くの人に深い感銘を与えた。「どうしてそんなに強いのですか」と尋ねられ、「自分は力の強い人間じゃない、運がいいです。運は努力した者につきます。毎日いろいろ勉強した者に神様が与えてくれます。」と。
この人にこの言葉あり、この先さらに精進を重ねて、大横綱の道を歩み続けていくことだろう。大いに期待して止まない。