091: 生まれつきの資質よりも日頃の努力
2013.07.25
※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。
「俺は天才は嫌いだ。凡人が努力して得た能力を尊ぶ」と、日本史上希有な天才である織田信長の言葉である。生まれつきの資質よりも日頃からコツコツと地道に努力精進をして身につける能力の方がずっと有用だ。だから、そういう人物が大好きだと言うのである。
さぞかし天才は当然天才を好むだろうと思いきや、さにあらずで天才嫌いなのである。天才だからこそ天才のもつ弱点・欠点を知り尽くし、凡人の強さ、良さを熟知した言葉である。
天才は応々にして、わがままで、気分屋で、周りのことなど考えない。ちょっと良いとすぐ天狗になっていくパターンが多い。振り向いたら後には誰もついてくる者がいなくなり、結局チームにとって鼻持ちならない厄介者となる。
組織は、あくまでもチームワークで仕事をするもので、突出した能力よりも平均以上の能力を持つチームがいい。こういうチームはお互いに切磋琢磨して個々の能力を限りなく高め、結束を固め、相当の力を発揮するものだ。自分が凡才だからと自信を失いかけている人には大いに勇気と希望をもたせてくれる言葉だ。
世の中いかなる分野であれ、古今東西おおよそトップというのは努力と工夫が、やがては開花結実することを期待し確信しているからこそ、そういう人物を重用し、かつ求めて止まないのだ。だから地に足をつけ焦らず、臆せず、怠らず自分の使命役割をしっかりと果たしていくことだ。打たれても打たれてもヘコたれずに、ひたすら前へ前へと向かってくる人間には結局誰もかなわないのだ。
所で皆さんに誕生日メッセージを贈るために予め直属の上長からの情報メモが人事課を通して回ってくる。そのメモのなかで少々気になるコメントがある。それは「どんな時も文句一つ言わず黙ってやってくれるので大変助かっている」である。
一見良さそうに思う所だが、実は心配なことだ。結果的にイエスマンづくりをしているのではないかと。面従腹背で口と腹と違う人を作ってしまう。また「伸び伸びとやらせています」と言うのは結構なことだが、勘違いしてはいけないことがある。のびのびと言うのは、小事のことほど大事に考え、細心の注意を払って一つひとつ着実に手を打っているからこそ生じる精神のゆとりを言うのだ。
思い込み、思い過ごしは見当違いのもとだ。
平成十五年十月三十一日