080: すべてが師となる前向き人生

2013.02.10

著書「心のしずく」より

※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。

 この度PHP研究所より『私を変えた出来事-トップが綴る「一日一話」』(価格一六〇〇円)が発刊されました。そのなかに私の執筆した文章、テーマは「すべてが師となる前向き人生」が掲載されておりますので案内します。
「すべてが師となる前向き人生」
 強烈な一発で人生観が変わるような出来事はそうそうあるものではない。むしろそれよりも様々なことが折り重なり、ボディーブローのように後になって効いてくることのほうがはるかに多い。
 ついこの頃亡くした最愛の名犬ガブリエルからは生命の尊さと忠義を、草木からは忍耐と希望を、友からは信義と思いやりを、同志従業員からは気ばたらきと一生懸命を、先輩からは判断の物差しは、損得ではなく善悪で計ることを、老師からは儲けた金品は楽しんで働いた後の残りカス、ゆめゆめカスに執着するなかれと。
 とりわけ飛び込み営業で顧客開拓に専念した十九才から二六才までの七年間では、その時々に出会いをいただいた三〇万人余のお客さまから商いの何たるかを、骨の髄までたたきこまれたし、またありがたい人生の機微に触れることができた。このようにつらつらと思うに、今日あるのは、ありとあらゆるものが幸いにもその都度私のために師となってくださったおかげと感謝している。
 なお今ひとつ、私の胸に奥深く刻み込まれているものがある。生前ただの一度たりとも、一言の説教もなかった寡黙の親父が死の間際に、私にくれた宝ものがある。懸命に薄目を見開いて、一点を凝視したかと思うと、肚の底からしぼり出すような声で「正行なあ、人生銭金よりもずうっとずうっと大事なものがあるぞ」と。

平成十四年十一月三十日