074: お客様を大事に、これが商いの原点

2012.11.10

著書「心のしずく」より

※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。

 いつの時代でも、成功している会社、繁盛している店に共通していることは、とにもかくにもお客さまを大事にしていることである。同様に継続的に業績の上がっている営業マンに共通しているのもまた、お客さまをことの他、大事にしていることである。それは自分の勝手都合で、初めに数字ありきではなく、数字は後からついてくるお客さまからの満足料という商いの原理原則を熟知しているからだ。
 お客さまを大事にするということはどういうことなのか。その答えはいつも自分をお客さまに置き換えたら自ずと出てくる。能うる限り、お客さまの要望、期待に迅速に応え、さらに察し、それにオマケをつけるぐらいにして、全身全霊、奉仕に努めることだ。ひとえに心と頭の勝負だ。また奉仕はやりがいや感謝の心を育んでくれる。
 お客さまはこちらが思う以上に慎重で敏感だ。終始営業マンの様子を観て、値踏みをしている。この人を信用していいかどうかを。その時、その場で文句や苦情を言ってくれるお客さまは分かり易くて、有難いが、反対に寡黙な人ほど真意がつかみにくくて恐いものだ。そもそもお客さまは対応次第でものの見事に変わる。(一時点だけで短絡的に捉えて、その先を決めつけてはいけない。)
 現在〇円や一〇円のお客さまは、将来一〇万円、一〇〇万円の有望なお客さまであり、さらに口コミから、お客さまによるお客さまづくりが限りなく広がっていくことを考えると、あらゆるお客さまは等しく大事になる。
 こんな話がある。
 私の知人で、外食好きのAさん家族がとあるレストランに行ったときのことである。たまたま案内された部屋の飾り棚の皿を子供があやまって割ってしまった。ここは律儀なAさんのこと、直ぐ店の主人のところまでいって丁重に謝罪をしたが、そのときの主人の対応に驚かされた。お子さんに怪我はなかったかどうかの気遣いは一切なし。即座に弁償してくれと。Aさんは言われるままに請求代金一〇万円を支払い、直ぐ店を後にした。
 店は一〇万円を手にしたが、それと引き換えに大事なお客さまを永久に失うのみならず、手強い敵まで作ってしまった。目先の損得に執着したばっかりに、案の定この店はいつたたんでもおかしくないくらいにお客の入りが悪いと聞く。
 商人はきちっと勘定と感情をわきまえていないと。
 商いの原点を忘れた主人、彼の身から出る錆は店をも錆させてしまう。

平成十四年五月三十一日