070: 君子は事え易くして説ばしめ難し

2012.09.10

著書「心のしずく」より

※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。

 八方美人はとどのつまりは八方塞がりになるようだ。誰に対してもいい顔する調子のいい人のことを八方美人というが、立ち回りがよすぎてしまいにはつじつまが合わなくなるから、誰からも信用されなくなる。こうなるとにっちもさっちもいかない八方塞がりだ。
 関連するが、論語に次のような話しがある。
 弟子の子貢がこんなことを先生の孔子にたずねた。
「村中の人から好かれるほどの人物なら申し分ないと思いますが」
「さあ、どうかね」
「それでは憎まれるくらいのほうが…」
「それもどうかね、村の善良な人からは好かれ、悪いやつからは憎まれる、こういう人物でなくては」
 誰でも人から憎まれるのはいやだが、そのために是は是、非は非とせず、あいまいな態度でいると、やがては人間性を疑われる。これはという時には、いちいち人の顔色をうかがうようなことではダメで、あえて人から嫌われるぐらいでないと、ほんとうの信頼を得ることはできない。誰からも無差別に好かれる人物より、憎む人、然るべき敵のいる人こういう人物のほうが信用できるのだ。
 もうひとつの話しは、「君子は事(つか)え易(やす)くして、説(よろこ)ばしめ難(がた)し。小人は事え難くして説ばしめ易し」である。君子の下だと働きやすいが、気にいられるのは難しい、これに対し小人の下では働きにくいが、気にいられるようにするのは簡単だ。
 職場にあてはめてみるとこういうことだ。
 よい上司は部下の能力や経験に応じて、目標を立て、その役割を与えてくれるから働きやすいが、仕事には厳しく、次から次へといろいろレベルアップを図って要求してくるから、いいかげんなことでは気にいられない。
 これに対して小人物の上司は部下の程度や状況を考えずに、また上から指示されたことを十分に理解せず、言われたままのかたちで伝えてやらそうとする。これは部下にとっては働きにくいが、上司の顔色を見ながらその場かぎりの要領よく立ちまわりさえすれば、気に入られるのは簡単だ。
 この二つの話、人生への深い洞察と人間として生き方を示してくれる。

平成十四年一月三十一日