063: 易きに流されず、易きを求めず

2012.05.25

著書「心のしずく」より

※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。

 人間ここしかない、このときしかない、もうこの後はないと思うから、踏んばれる。自分の努力や工夫の足りなさを棚に上げて、まあ仕方がないか、これがダメならまた他のことを考えればいいか、というような半端な気持ちではものごとは成就しない。こういった輩は腑抜けで甘ったれ、軟弱で軽薄だから、何をやらせてもことごとくダメで、何ひとつとしてまともなものがない。やがて年を重ね、気のついたときは、時すでに遅しで、後悔の念を痛いほど思い知ることになる。
 大体、今日のことができもしないで、何が明日の事ができるか。ここで頑張らないでいつ頑張るのか。とき、ところを変えてみても所詮、その結果は同じこと。それよりも何よりも先ず自分を変えなければ、今日がダメならまた明日があるさというような一見、慰めふうの言葉もあるが、明日は今日の続きであることを忘れてはならない。
 実のところ今日のあり方次第で明日の結果が出るのだ。だからこそ今日一日のあり方が大事なのだ。小生もこの仕事を天職だと思っている(転職ではない)。これしかないと思い続けてきたからこそ、多くの人に支えられ、おかげさまで、どうにか今日までやってこられた。
 この道四〇年、脇目もふらず、希望と信念を頼りに打ち込んできた。常に隣の芝生より、自分の家のほうがずうっと青いのだと思ってやってきた。そう思い続けてやっていると、面白いことに、ますます青くなってくるものだ。
 現在我社は、来春新入社の役員面接の最中だ。他人の夢。会社の夢(VISION)について質問してくれるが、いざ自分のことになると。とんと夢がない。夢が小さい。将来は夢の大小で決まるのに。中京医薬品は、人を大事にしてくれる、人間成長を図ってくれる、だから是非とも入社したいと異口同音に言うが、そうして入社し、その後の有様を見ていると、大事だとか成長の本当の意味が分かっているのか、はなはだ疑問だ。
 断言しておく。大事にするというのは、よしよしの猫可愛がりでもなければ、お天道様のように、温かく包むことでもない。大事の意味は、困難に負けない力、忍耐する力、やり抜く力、勇気する力、生き抜く力を養成していくことにある。成長についても同じ事。温室やぬるま湯の中では到底おぼつかない、若い芽は雨風にさらされ、打たれてこそ大きく逞しく伸びる。機会は皆平等。一度きりの人生だ。何ともお礼の言いようのない、有り難い人生にしていかなくては。
 くれぐれも、易きに流されるなかれ。易きを求むるなかれ。

平成十三年六月二十九日