044: ふせ込みの意識

2011.08.10

著書「心のしずく」より

※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。

 種がよく育つようにと土地をよく耕し、肥料を施して養生する期間を農業では「ふせ込み」というそうだ。望みが叶うようにと、天に伏して願いをかけ、魂を打ち込むという意味になろうか。味わい深い言葉である。
 作物の出来ばえはこのふせ込みの作業の良し悪しによって決まる。だから、この大事なときを黄金の期間として強く意識して農民は丹精をこめる。
 この道六〇余年のプロいわく、「ど素人は肝心なふせ込みのときに、汗をかかんでおいて、直ぐさま結果がどうのこうのとばかり言っておるんであかんのだわ。手を抜き、労を惜しんでおいてなぁ。それじゃあ、お天道さんも言うこときいてくれんわさ。ええか、やるべきことを、やるべきときに、面倒くさがらずに、しっかりと意識してやらんと、相手(作物)はちゃんと応えてくれんでなぁ。ほんとうに相手は正直者だでよう」
 人づくりもお客さまづくりもこれに全く同じだ。特に若い人はやがて開花結実するための、いまのいまが大事な大事なふせ込みの時ということをしっかりと意識して、コツコツと地道な努力を重ねて欲しいもだ。またお客さまづくりにおいても厚い信頼が得られるよう、健康づくり、幸福づくりの種まきには誠心誠意をもって接して欲しいものだ。
 種まきにははじめからいい悪いがあるものではなく、作業の出来ばえはひとえに作り手の良し悪しにある。同様にお客さまにはじめからいい悪いがあるのではなく、もともと売り手の方に問題がある。
 常々、折に触れて言っておるところではあるが、いい人材とは学歴や知識が高い人ではなく、意識の高い人のことだ。人間の意識というものは頭脳や能力をはるかに上回るものだ。意識をもつということは、それはそれは驚くほどのすごい力を発揮する。さらに強い意識をもち続けることにより、あらゆる事に対しての高い見識が備わってくる。
 当社においてもそういう例は枚挙にいとまがない。「ふせ込み」の意識とは、やる気、本気、根気、勇気を出す魂のことだ。プロとはその魂の塊(かたまり)のような人のことを言う。

平成十一年十月一日