022: 先用後利

2010.09.10

著書「心のしずく」より

※著書「心のしずく」より ~アーカイブ100回連載シリーズ~
※この記事は、平成八年~平成十六年にかけて執筆されたものです。

 どこまでも透き通る青空の下、あちこちで競うように群れるコスモスはまるで花の海だ。やわらかな陽と風に遊びながら、色とりどりの花の波をたおやかにうねらせて、まばゆいほどにきらめき輝いている。
 そっと一輪の花に目を凝らしてみると、その美しさとは別に不思議なほどに、みずみずしい生命の躍動と柄は小さいが小宇宙のように深奥で大きな広がりを観せてくれる。
 過日、縁を頂いて、世界一の鳥羽水族館の名物館長 中村幸昭氏と半日面談をする機会を得た。
 うわさに違わず六九歳とは思えない青年そのものでいらっしゃる、日本動物園水族館協会、日本貝類、日本甲殻類、日本観光学会、日本釣振興会、日本文芸クラブ、鳥羽商工会議所会頭等々その他いろいろの公職を務められ、さらに年間二〇〇回を超える講演、文筆活動やらで超多忙を極めている。(もっとも当のご本人はそうは思っていないらしい)
 館長室に通され会うやいなや開口一番「山田社長、この度の株式公開おめでとう」と言われて驚かされ、その次の言葉がまたびっくり「私はねぇ、ストレスのないのがストレスでしてね、人生は受身ではだめ、自ら楽しまなくっちゃあね、アッハッハッハ」と。
 プラス積極思考、頭の切り換えの早さ、人まねをしない柔軟な非常識な発想、気さくなお人柄、軽妙なジョーク、さりげない気配り、豊かな行動力、夢とロマン、一生青春、エンターティナー、チャレンジ精神、ハングリー精神・・・。知らぬ間に、人生の達人中村館長のファンになってしまった。察するに、永い間自然に親しみ生き物と接するうちに人間様から学ぶ以上にそれらを師として学ばれてきたのではないだろうか。
 もう一つびっくりがある。
 鳥羽水族館の社内報「談流」平成九年一月の館長の年頭所感である。そのメインタイトルは「誇りと情熱そして先用後利を」である。教えられたのは、商いはお客様を「アキサセナイ」ことであり、働くとは「ハタヲラクニスル」意であり、儲かるとは文字通り「信じる者」を増やすファンクラブだという点である。そのコンセプトは要約すれば「先用後利」の四文字に尽きる。コミュニケーション、相互信頼関係、永続性、種まき商法・・・。これからは富山の薬売りの「先用後利」から学べと言う文面だ。
 我が意を得たりとはこのことだ。お誘い頂いた夕食の海の幸も美味であったが、それ以上に貴重な人生の幸、商いの幸を大御馳走になりました。
 それからまた一週間足らずの後、図らずも名古屋にて夕食を共にさせて頂くとは、縁は奇なものだ、本当に有難いことだ。

平成九年十月三十一日