思うままに No.239
2015.10.31
※エッセー「思うままに」より ~毎月更新~
不満もいろいろあるがその内容は千差万別、この世に生きている限りいささかの不満ももたない人はいない。他人の目からは何の不自由もなく満ちたりているように映る人でも当人はあれもこれも足りないと思っているものだ。
不満には二通りある。ひとつは現状に満足せず常に高みを目指して自分の理想の実現に向って歩み進める「プラス志向の不満」である。もうひとつは堂々巡りの優柔不断で一歩も前へ踏み出すことができず思考停止に陥る「マイナス志向の不満」である。
要は不満を抱いてもそれがプラスに働けば希望を手にすることができるがマイナスに働けば後ろ向きとなりせっかくのいいところまでも失くしてしまう。プラス志向の不満は成功への強い動機づけになるが、マイナス志向の不満に効く薬はない。気の毒になるだけだ。
この道理に気づいていない人は少なくない。実にもったいないことだ。そう考えると溜まる不満はコレステロールに似ているが、それは悪玉ではなく、善玉コレステロールのようなものでその効能は大きい。ただし活用の仕方次第だが。
また不満の原因となるその対象を他に求めるのか、それとも自分に求めるのかではその意味は違う。事にもよるが大抵は他からではなく不満のもとは自作自演の産物に起因する。同様に結果においても他責ではなく自責を考えるのが順当だ。
今回ラグビーW杯において過去七大会でわずか一勝しかできなかった日本代表はイングランド大会で優勝候補の南アフリカを含む強豪から三勝を挙げた。この驚異的な大活躍は多くの人に深い感銘感動を与えた。
二十数年にわたり連戦連敗の弱小チームをわずか数年で長足の変化進化を可能にしたエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチの談話には大いに得心した。長い間選手の心に芥のようにはびこる不満を他に求めるのではなくて、自分に求めるようチームの意識改革を果敢に断行した。不満を勝つためのプラス志向に変化・転化させた。
「日本人は体が小さいから」、「プロではないから」、「農耕民族の精神を持っているから」と、これまでチームに蔓延していた「いい訳病」を断じて許さなかった。
「日本のラグビー界には Can’t Do(できない)というカルチャーがある。確かに体は小さい。しかし意識を変えれば強くはなれる。速くはなれる。賢くなれる。これが Can Doなのだ」と。その陰では長期合宿を張り、どこのチームにも負けない血の滲むようなハードな練習を課してきたのだ。
終盤戦の接戦を制した南ア戦後、選手たちが言った「絶対相手のほうが先に疲れると思った。こっちのほうがもっとしんどい練習をしてきたから」と。
他のせいにする不満がこびりついていた選手は、その不満のほこ先を自分にぶつけることにより、意識の変化が本物の勇気と自信を勝ちとったのだ。