思うままに No.233
2015.04.30
※エッセー「思うままに」より ~毎月更新~
東京オリンピック招致の際、滝川クリステルさんの身ぶり手ぶりの懸命なプレゼンテーションで火がついたのか、このところ<おもてなし>という言葉が世界中を駆け巡っている。招致の成功の要因はいくつかあろうが、何よりもその勝因は日本人のおもてなしの真髄が多くの審査員の心を打ったことによるものであろう。
一期一会の茶の心から生まれたものであろうが、古来より日本の伝統と文化に根ざす日本人の心を象徴するにもっとも適しい言葉だ。自動車、家電、アニメなどもいいが、これからは類い稀なこの心を文化を大いに世界に向けて発信し輸出すべきだ。このおもてなしは間違うことなく極上の世界品質のMADE IN JAPANだ。
取り巻く美しい自然と風土、四季折々の移ろいにより育まれてきた日本人特有の機微や繊細な感性が長い時を経て磨き高められたものだ。誇らしく優れた国の品位品格と言っていい。年々増え続ける外国からのお客様が口を揃えて、日本人のホスピタリティーやきめ細かなサービス精神を称賛するところだ。
前の東北大震災のときも、被災者の方々の奪い合うのではなくて、分かち合う、助け合う振る舞いに見る民度の高さ、連帯、協調、団結の素晴らしさに世界から感動と尊敬を頂いたところだ。これを下支えしている日本人の高いモラルと精神性が根底のところで、おもてなしの心に相通じ、つながっているように思う。
彼ら曰く、「日本人は先回りの気づかいをする。そのことによって自分では気づかなかったことを気づかせてくれる。」、「要求してからしてもらうのは当り前だが、言われる前に相手のことを慮って対応してくれる。」、「ほんとうはもっとこうして欲しいと思っていることを機を見て敏にとくと気を利かしてくれる。」と。<おもてなし>とは<観る、察する、くみとる、先回りする>のことだ。マニュアルにはない人への観察力、洞察力をもってする以心伝心の精神の深い営みだ。
さて、対応にはNEEDSとWANTSがあるがその中味は異なる。NEEDSは要求でその場その場にして対応は平面的であるが、一方WANTSは欲求のレベルまで立体的に掘り下げ、先々のことまで考えての対応だ。相手が気づいていないところまでさかのぼり、今一番欲するものは何かを探し出していく作業だ。このレベルまで達すると満足を超えて感動感激感謝をつくる。
要求はそのもとの欲求から現れる一部分に過ぎない。要求は分子、欲求は分母にあたる。
もてなす=持ってなすとは何をもってして相手に心底から喜んでもらえるかを見つけ出すための深い思い入れだ。目、鼻、耳、舌、皮ふ、さらに勘を働かせて、今自分ができる最大限の意を注ぐことにある。<おもてなし>とは単なるサービスにとどまらず顧みて自分を高める全人的な人間業なのだ。