思うままに No.213

2013.08.31

エッセー「思うままに」

※エッセー「思うままに」より ~毎月更新~

 このほどイチロー選手が日米通算4,000安打の快挙を成し得た。このとてつもない数字をたたき出すには当然の事訳がある。その根底は彼が培ってきた野球人生に対する考え方生き方に尽きる。いまこの偉業の結果よりも何故それを創り出すことが出来たのかその原因に深い関心をもつところだ。
 試合後の記者会見で「4,000安打を打つには8,000回以上の悔しい思いをしてきた。それと常に向き合ってきた。」今後については「失敗を重ねていってたまにはうまくいってということの繰り返しだと思う。それを続けていく。」
 上手くいくことより上手くいかないことの方がはるかに多い。その悔しさに対する並はずれた思いと自分への飽くなき挑戦心と向上心にはただただ驚嘆する。このプロフェッショナルは日々行に身を修め、道を極めていく求道者だ。晩年兵法書<五輪書>を著した不世出の剣豪宮本武蔵と重なる。
 幼少の頃から夢を実現に変えていくこと。目標を具体的な数値に落とし込んで妥協を許さず厳しくそれを自分に課していくこと。目標に対して頑ななまでに忠実であろうとすること。貪欲なまでに次々により高いビジョンをふくらませ向かっていくこと。体づくりや練習には固定観念に捉われず適宜創意工夫を続けること。この鋼鉄のような芯の強さと若竹のようなしなやかさ、また、たくましさとたおやかさが進化成長の基になっているに違いない。
 スポーツ心理学者の児玉氏が「イチローにはそぎ落しの美学がある。」「成長しようとするとき普通の人は何かを付け加えようとするが彼の思考は全く逆で無駄を省こうとする。」と指摘する。
 例えばイチロー選手は細身のバットを使用している。「常識的に考えればミートするだけなら太いタイプのバットの方が楽だ。だが彼はきちんと芯に当てるバッティングをするためにあえて細いバットを使っている。」と。「逆境にいるときそこから何かを探し出そうとする姿勢が彼を成功に導いた一つの要因だ。」とも。
 イチロー選手は打撃の技術に自信を深めたときその思いをこう語っている。「前は相手のミスを待っていたけれど、今は自分が本当にベストだったと思うためには自分だけでなく相手のベストも必要だ。」と。この超一流選手は出色のプレーもさることながらそれ以上に常にその基となる心と技を高め続けていく生き方には改めて感服する。
 努力は天才に勝るというがこの気高い孤高の努力の人は野球道を通してこれからも限りなく道を極めていくことであろう。