思うままに No.173

2010.05.06

エッセー「思うままに」

※エッセー「思うままに」より ~毎月更新~

 販売なくして製造なしと言われるように、とりわけ販売業務は最重要でより広く、より多く人に、より多くの価値ある商品の普及、拡大が最大のテーマだ。営業マンは、より多くのお客様から継続的に商品を永時にわたり買って買って買い続けてもらえるよう企画販売する人だ。またお客様にもっとも近いところで経営理念、CSRを体現していく最たる人だ。
 いい営業マンはお客様以上にお客様のことを第一優先にする。半端ではない。親身になり、よきアドバイザーとして常に念頭におく。一方そうでない営業マンはお客様のことより自分のことを第一優先にする。その結果は明らかで直ぐさまお客様に見抜かれ、後が続かない。
 我々置き薬業は一般の訪問販売業者と異にして一時の商売ではない。ふれあいを大事に、家族づきあいのようにしていく永時のものだ。だからこそ時代が変わろうとも、今日まで三百有余年も根強く続いてきた、極めて優れた業態なのだ。
 いつだったか、ふと初めて入った小料理屋の、感じのいい店員さんのことが今でも思い出される。腹ペコのせいもあってメニューを手に矢継早にアレコレ注文しようとしたら、店員さんは遠慮気味にこうおっしゃった。「恐れ入りますが、この一品だけでもかなりの量ですから全部はとても食べきれないと思います。こうされてはいかがでしょうか」と親切ていねいが故にすすめられるままにした。おかげで一皿も残すこともなく適量にて美味しく大満足、少々高くはついたが。
 帰り際に「有り難うございます。またお近くにお越しの際は是非ともお立ち寄り下さい。板場と共にお待ちしております。お気を付けて」いつの間にやら外は雨が降り出している。「よろしかったらどうぞお持ち下さい」と傘を差し出してくれた。「有り難う、でもいつ返せるか分からんよ」と言ったら「どうぞお気にされずに」と見送って下さった。映画のワンシーンのような光景だ。入ってから店を出るまでのおもてなしの雰囲気と一貫した接客サービスそのものが丹精を込めた料理と一体化している。
 それに突き出しが実にいい。突き出しとは酒につくサービス品(普通はいい加減なものが多い)であるが、お客にとっては口にする最初の料理だ。だからこそこの店は手を抜かず意と腕をかけてつくっているのだ。この突き出し、余りにも美味しかったのでおかわりを頼んだら「どうぞお好きなだけ召し上がり下さい」と、この店ムリ・ムダ・ムラのないよう気づかいをして感謝され、一方では食べてもらいたい品をしっかりとすすめて満足と客単価を上げている。
 熱烈なファンがいる店に違いない。